
2011年6月25日 放送分
東日本大震災の時、何を感じ、どう動いたか3
校舎から海がきらきら輝いているのが見える、海よりそう遠くない場所に建つ石巻市立門脇小学校で6年生の担任教諭をしていた若生先生は、卒業式を一週間後に控えた生徒達とグラウンドの整備をしている時に被災しました。今まで経験したことのないような、立っていることもできない揺れを感じ、校舎の方をみると窓ガラスが割れるほどに揺れていたそうです。また強い揺れで、少ない水がはっているだけのプールからも水があふれるほどだったそうです。その様子を見て若生先生は急いで生徒達に呼びかけ、学校にいた生徒達だけではなく、下校途中で泣きながら学校に戻ってきた1年生などにも声をかけグラウンドの中央に生徒達を集めて人数を確認したのち、すぐに学校の裏にある日和山へ避難したそうです。
避難訓練では机の下にもぐる一次避難、建物の倒壊を避ける為に屋外に避難する二次避難、そして津波の発生の恐れがでた場合に日和山に避難する三次避難まで想定していたそうです。その為、この地震の時でも津波の到達まで時間の余裕も残すほどにすぐに三次避難を行うことができたそうです。様々な状況を想定し、避難活動という形で、先生も生徒達も危機に備えることで、今回のような地震が起きた際に余裕をもって動くことができるのだと思いました。こうした危機状況では1分でも1秒でも無駄にはできません。その数分、数秒が命に関わる恐れもあるからです。
日和山に避難する際は雪も降っていたので、先生方は6年生達や、生徒達を迎えにきた保護者の方にも手伝ってもらいながら、ブルーシートを広げて大きな傘のような状態で、生徒達をいれながら山を登って避難したそうです。山で避難している途中に津波が近付いてくる様子をみていた生徒達は、泣き出す子もいれば、自分の家が流されていることに気付きショックを受ける子、声にならない声を出す子など様々な形で驚きを表したそうです。若生先生自身もその信じられない光景をみて、息をのんだそうです。私自身も石巻を訪れた際に、日和山からの津波の惨状をみましたが、すさまじいものでした。しかし若生先生はその状況をみても取り乱すことなく、津波は予想以上に大きい規模のものだと判断し、生徒達をさらに山の頂上にある神社の境内に移動させました。
若生先生の話を聞くと、避難活動についてとても適切な判断を下し、即時に行動しているように感じました。その要因について尋ねると、やはり避難訓練通りに動くことができたことを挙げられました。普段の危機状況ではない場合ならばスムーズに動くことができても、実際に避難活動が必要な時にスムーズに動くことができなければ意味がありません。しかし若生先生はただ避難訓練通りに動くことだけがよかったのではないとも話してくれました。避難マニュアルによると、本来の三次避難の場所は日和山の頂上ではなく、日和山の中腹にある石巻市女子高校のグラウンドでした。しかし津波や避難している途中で津波が近付いてくる様子や石にヒビが入るのを見て、そこも危ないと判断し、日和山の頂上に避難したことがよかったのだといえるでしょう。マニュアルに従うのも大切ですが、危機状況ではそれらが役に立つかは実際に現場で自分たちが判断しなければいけないということを切に感じました。
避難した際には学用品などを校舎に置いてきた生徒がほとんどだった為、震災の後は生徒達の学用品がまったくない状態で、先生方もこれからどうしようかと悩んだそうです。しかし全国から寄せられた寄付によって、津波で失った学用品も補うことができ、学校の校舎についても他の学校の校舎の一部を借りることができた為、ようやく授業を再開できるようになりました。まだまだ足りない学用品や、場所や時間といった点で制限もありますし、今後の生徒達の体調も心配です。しかし問題点が起きたとしても数が多すぎて、それをひとつひとつ解決していくことだけで精いっぱいな状態だそうです。
そして今後は何よりこの震災によって傷ついた生徒達の心のケアが必要になっていくでしょう。その問題については、多くのカウンセラーが派遣され、生徒達の話を聞いたり、アンケートをとって情報を共有するなどをして生徒達の心のケアを行っているそうです。しかし今回、生徒達が経験した悲しみや恐れなどは、決して消えるものではないでしょう。けれどその辛い経験を命の大切さを知ることといったものに変えて、教訓としていければと若生先生は語ります。また若生先生は、全国からの支援活動から助け合いについて学び、震災で芽生えた家族のきずなの大切さをあらためて知るなど、震災というマイナスの経験から今後に活かすものを見つけ出して前に進んでほしい、そしてそのことを教えていきたいと話しました。それを聞いてどんな困難な状況でも、教師として生徒達にできることを指導しようというプロフェッショナルな姿勢はとても素晴らしいと感じました。